Zo通信

2023-05-05 00:00:00

 今回のGEUST展では酒百浩一さんの作品を紹介しました。酒百さんはフロタージュという技法を使った作品を手がけています。凹凸あるものに紙を置き、鉛筆などで擦って形状を写しとる技法です。19世紀初頭から始まった絵画運動の中では様々な技法が試みられました。フロッタージュもその1つです。対象物から紙に写しとる方法は、東洋では「拓本」として知られていますが、写しとる対象は著名な書などを刻んだ銘板からでした。フロッタージュを用いた作家が対象としたものは、日常のどこにでも見られるモノでした。酒百さんは、植物の葉から葉脈を写しとり、廃屋になった建物の部屋の壁を埋め尽くした「みどりの部屋」(越後妻有)やすでに閉鎖された町工場で使い古された道具などから収集した「大田のかけら」(東京・大田区)など、地域の人々の営みや生活の息づかいというものまでを写しとって制作につなげてきました。時には路上にうずくまり、時には壁に背伸びして制作する姿は、日常の中の非日常的な行為であり、長年にわたる活動は芸術活動の原点として印象的です。 

(S.I)