Zo通信

2020-09-01 00:00:00

 触れるということ。直に対象と接し、手にすることによって、多くのことを感じとります。人は、五感を通して様々な情報を体の中に取り込んでいきます。なかでも触感は、皮膚感覚として繊細な情報を与えてくれます。手で触れ、包む。日常の中での手を通しての経験は、体の一部となって記憶、蓄積され、日常のあらゆる場面において、ものを見極めていく大きな力になっています。造形において、手を動かしての思考は、その過程において多くのことを発見し、作り手にとってイメージを確かなものにしてくれます。ザラつきや滑らかさ、冷たさや暖かさ、重さや軽やかさなど、手の感覚による記憶は、素材感として、人とものとを密接に結びつけます。長年人の手で触れられ、艶やかにすり減っている用具や木像や石像などを見るとき、これまでに多くの人々が共有してきた時間がそこに在ることを感じます。触れてみたくなるもの、思わず触れてしまうものには、確かな存在感があり、その温もりに安堵します。

 

(S.I)