Zo通信

2020-09-01 00:00:00

 触れるということ。直に対象と接し、手にすることによって、多くのことを感じとります。人は、五感を通して様々な情報を体の中に取り込んでいきます。なかでも触感は、皮膚感覚として繊細な情報を与えてくれます。手で触れ、包む。日常の中での手を通しての経験は、体の一部となって記憶、蓄積され、日常のあらゆる場面において、ものを見極めていく大きな力になっています。造形において、手を動かしての思考は、その過程において多くのことを発見し、作り手にとってイメージを確かなものにしてくれます。ザラつきや滑らかさ、冷たさや暖かさ、重さや軽やかさなど、手の感覚による記憶は、素材感として、人とものとを密接に結びつけます。長年人の手で触れられ、艶やかにすり減っている用具や木像や石像などを見るとき、これまでに多くの人々が共有してきた時間がそこに在ることを感じます。触れてみたくなるもの、思わず触れてしまうものには、確かな存在感があり、その温もりに安堵します。

 

(S.I)

2020-05-05 00:00:00

  「型」という言葉は、身近に使われています。鋳物の外・内型としての意味の他に、人の行為の手順や約束ごとにも使われています。一定水準の質を維持して、繰り返し再現する必要性から、人々に共通する認識として型というものが生まれてきます。ものづくりにおいては、制作までの手順の無駄を省き、より高い質の維持を求めて、型を進化させてきました。型には、人の知恵と工夫が詰まっています。行為の手順や約束ごととして使われるときは、人による解釈や表現に違いがない「手本」としての役割を果たし、学ばれ伝承されてきました。完成された型は、簡素で無駄のない美の裏付けをもっています。「型から学ぶ」ことは、そのための修練も必要ですが、そのことによって、多くのことを身につけることができます。一方で、「型にはまった」とか「型どおり」という言葉は、窮屈な意味にも使われています。社会の価値観が大きく変わろうとしているときには、これまでの型が崩れがちになります。型を破るにしても型の習熟あってのものです。創造するという意味も合わせて考えなければなりません。

 

(S.I)

2020-01-25 00:00:00

 丸や三角、四角という様にかたちを説明する言葉があります。造形の視点でとらえると、のびる、縮む、ねじれる、曲がる、反る、ふくらむ、へこむなどは、かたちの状態を表す言葉です。ずれる、合う、重なる、支えるなどは、関係性を示しています。ふっくらした、まろやかな、どっしりしたなど、個性を表す言葉もあります。滑らか艶やかなどは、手触りや触感を、彫る、削る、うがつ、重ねる、積む、組む、はめるなどは、素材に対しての人の行為を示しています。茶器には、部分を細かく分けてそれぞれ「見どころ」として呼び名をつけ鑑賞に役立てています。かたちを表す言葉は、決して多くはないのですが、他の言葉に置き換えられない程の役割を持っています。言葉は、人に伝えることと同時に、物の状態を観察し定着させていく上でも大きな役割を持っています。また、物事を可視化する上でも大きな手がかりとなります。ゆったり感やたっぷり感という言葉も造形の言語に加えながら「かたち」と向き合っていこうと思います。

(S.I)

 

2019-12-10 00:00:00

 冷和元年も残り少なくなりました。良いことも悪いことも様々でしたが、衝撃的なことの一つに沖縄県の首里城の火災がありました。防火設備に限らず先端技術が発達し、随所に取り入れられている中での不幸で、目に見えない危険が潜む日常の危うさに言葉を失います。首里城を訪れたのは、25年ほど前で、「正殿」「北殿」など主要な建物の復元がほぼ終わった頃でした。内部のしつらえや装飾などは未だ復元工事中でしたが、建物の外観や内部空間には、大らかで優しさと豊かさを感じました。その頃すでに修復のための木材の入手には大変苦労され、正殿の柱に使われている直径1m近くの木材は、国産材の調達は既に出来ず、台湾ヒノキが使われていました。この樹種も台湾での伐採が禁止され、今後は入手が不可能になるということも当時伺いました。木に限らず、自然素材は、人を包み込む様な肌感覚と時の累積を感じます。今後の復元には、今までにない様な知恵が求められています。

(S.I)

 

2019-09-20 00:00:00

 作曲家で藝大教授、副学長も務められていた松下功さんが亡くなられて丁度1年になります。練習演奏の指揮中のことであったとお伺いしています。私の2010年の個展に出品した作品『鳥たちの時間』を観て、曲のイメージがわいたというお話から2年ほどした2012年に、ようやく楽譜ができましたというお知らせをいただきました。私の作品と同名のタイトルで、1台のハープと2本のフルートによる演奏からなる楽曲でした。展示のために東京・椿山荘のロビーに一時期お貸ししていた私の作品を前にして初演が行われました。作品の隣に据えられたハープの演奏に、遠方の右と左からフルートが近づき中央で一体となり、また次第に離れていくという、会場の「場」を見据えた演奏と演出で好評を博しました。その後、2017年に台東区生涯学習センターミレニアムホールでの演奏会で、松下さん自らの指揮で演奏録音され、その時のCDをいただくことができました。作品同士の触れ合いを通して、創作するということの原点を静かに感じています。

(S.I)

 

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